Sep 6, 2018

山形市医師会たより~「猛暑に雑感、地域のことなど」(岡部健二医師:市医師会副会長)

 

●地域包括ケアシステムについてのわかりやすいコメントや、市内地域包括支援センター活動への理解など、岡部先生のユーモアをちりばめながら綴られています。地域関係機関にとっても励みとなるエッセーを是非ご覧下さい。

●山形市医師会たより第591号(平成30年8月20日)から転載

~事情で、急かされて巻頭言の筆を執ることになったためか構想がどうもまとまらない。猛暑にかまけて、まとまらないままで地域にかかわることなどを雑感として拙文で書き綴ることにした。

 地域包括ケアシステムのこと。

これまでの経緯を簡単におさらいして、いま一度、この言葉に込められた意味を考えてみる。目を逸らせないことがらとして、1990年代に入ってからの日本経済の慢性的な不調がある。そして1990年代後半から、伸び続けていた社会保障費を抑制する政策がとられたために、地域にはしだいに「ほころび」が見えはじめるようになったと言われている。これには捉え方の違いや地域差はあるかもしれないが、私が開業をしたのは今から約16年前で、その頃は幸いにも山形市では病診連携などがうまく運用されていたので気がつかずに済んでいたけれども、実はすでに地域医療は時代の潮流に乗ることが求められていた。

 その流れの中で登場したのが税と社会保障の一体改革という政策で、生意気な言い方をすれば、消費税を財源として地域医療を守るための機能を強化して、持続可能な安定化により地域に安心をもたらす構想である。そして2013年には社会保障制度改革国民会議の報告書にいたった。すなわち、現在の医療制度が形成されたのは主に1960年代で、その頃と比較をすると長寿化により医療・介護のニーズが明らかに変化したこと、すべての人が等しく必要な医療が受けられる国民皆保険を維持するためには、ニーズをふまえた医療提供体制の変革が必要であること、その際には医療サービスと介護サービスは一体的に考えること、などである。翌2014年には様々な医療・介護関連法の改正法案が成立し、地域包括ケアシステムを構築して効率的で質の高い医療を目指すことが明瞭にされた。

 現在、2025年までに達成しなければならない地域医療構想の策定が進められている。2015年の時点で全国に133万床ある病床数は2025年の必要量が119万床になると見込んで、高度急性期、急性期病床は少なくし、回復期病床を増やして調整をするという構想である。実はこの構想ではその時までに介護施設と在宅医療で、約30万人をあらたに受け入れることが前提になっている。すなわち、この構想は二つの大きな柱から成り立つもので、ひとつの柱は病床の再編で、長寿化による医療ニーズの変化に対応するための医療提供体制の改革である。もうひとつの柱は地域包括ケアシステム、すなわち医療と介護を一体的に考えて提供する、住み慣れた地域で生活するための体制である。両者は言わば車輪の両軸で、どちらか一方がこけても反対側がこけてしまう関係にあり、両方がそろってはじめて前に進むことが出来る。車輪の両軸という関係、これは医師会にとっても大切なことであると思う。

 

手作りの地図のこと。

山形市西の一角をホームグラウンドとして地域医療に携わっている関係で、同地区の包括支援センター注1)が主催する地区ネットワーク会議には毎年出席する。関係者20名ほどの会議は地域の社会資源情報や人口動態などを聞くことが出来るのでうれしい。そこでいつも感心するのは、ロの字に配置したテーブルの中央には地区の地図が設置されていること。うす緑色の紙製の円錐は城山を表していて臨場感も豊かである。学校や医療機関などはイラスト入りの立体パーツで示されている手作り立体地図なので、いかにも地域の集まりという空気にさせる。自己紹介のときに、「私の診療所は地図でそこにあります」と言って地図に立った立体パーツを指すと、参加者に笑みもこぼれて会議も少し和んだ雰囲気になる。

その地図に単独世帯、老老世帯は各々青丸、赤丸で、福祉バスの路線は色分けされた線で示されすぐにわかるようになっている。星印は訪問販売がやってくる地点である。地域の暮らしには買物の問題は切実で、近隣にある施設の協力をお願いして、送迎用バスを利用した買物支援の送り迎えサービスがボランチィア活動として独自にはじめられている。地図の横に立った支援センターのスタッフが、手作りの漫画チックな指示棒を使いながら熱心に解説をする。地図を眺めると地域の中に日の当らない所があれば、それをチェックすることが出来るし、議論をすれば何よりもいろいろな意見がでてくる。一寸した工夫に過ぎないが、支援センタースタッフの粋なアイデアが実に効を奏している。

 

元気もりもり応援隊のこと。

 地域の生活の実情は、純血主義的な頭で考えた地域医療などはまるで虚像であったかのようで、多くの人との繋がりで成り立っているから、いろいろな人のすることや出来事について語り合ってみなければ何も見えてこない。元気もりもり応援隊とはその意味でも面白い企画で興味をそそられるし、耳慣れない言葉かもしれないがネーミングがまた素敵である。包括支援センターがボランティアーを募って出来あがった応援隊で、地区の住民の自立した生活と健康寿命の延伸を目指した活動をしている。どこの地区にもあることだと思っていたら、最近になって、この地域にユニークな取り組みであると教えられた。隊員は薬剤師、作業療法士、理学療法士、管理栄養士、社会福祉士、ロコモ・キャラバンメイトなどと多岐にわたる。隊員が講師やときに演奏者などを務めて1~2時間の教室や演奏会を定期的に開催している。隊員に医師がいないのは、実は活動が午前中に限られているので、私がいまだに入隊を拒んで逃げ回っているからだろうか。

 地域の実像とは、本当は文化や伝統と頭の中にある虚像がない交ぜになったもので、地域包括ケアシステムも地域によって多様な発展の仕方をするはずである。それには心なごませる取り組みも必要である。そんな訳で、応援隊にはがんばれとエールは送っているのだが、恥かしながら、いまだに逃げ回っている。

特別養護老人ホームのこと。

日本人の死因は1位から4位までが順に悪性腫瘍、心疾患、肺炎、脳卒中。今のところ5位は老衰で、近いうちに脳卒中を抜いて4位になるだろうと言われている。ちなみに英国では死因の1位は認知症。この違いは死亡統計手法の異同によることに間違いはなく、わが国でも認知症と死亡診断書に記入することを周知すれば、脳の変性疾患として、その施策の重要性についての認識が深まるであろうという意見もある。

話は替わる。私が配置医師を務める特養注2)では退所される方の81%はお亡くなりになっての退所となる。この特養の死因をみると1位、2位が肺炎と老衰でほぼ同率である。また、33%の方を施設内でお看取りをするが、67%は医療機関にお願いしているのが現状である。死因をみると施設内のお看取りでは老衰;67%、心疾患;8%、悪性腫瘍;5%、肺炎;3%、脳卒中;0%、不明・その他;17%であったのに対して、医療機関のそれでは肺炎;54%、心疾患;14%、脳卒中;13%、悪性腫瘍;7%、老衰6%、不明・その他;6%と老衰と肺炎が完全に逆転する。日本医師会の「終末期医療、ACP(advance care  planning )から考える」によると終末期にいたる軌跡は急性型(突然の死)、亜急性型(がんなど)、慢性型に分類される。慢性型はさらにorgan failureとfrailtyの二つに分けられ後者は老衰の典型と考える。そこで、この特養を利用された人について死因統計を根拠に、独断と偏見からこれこの分類を当てはめてみた。すると施設または医療機関で亡くなられた方の89%は慢性型で、しかも全体の57%がorgan failure、32%がfrailtyとなり、organ failureがfrailtyの1.8倍もあることがわかった。

すなわち老衰=frailtyとすれば、特養での自然死はおおよそ全体の3分の1くらいに留まり、何らかの臓器不全により亡くなるほうが多いことになる。独断と偏見なので信憑生についての保証はないが、このためなのだろうか、特養利用者における医療面での妥当性・正当性の判断は、いつも感じていることだが、手ごわくて迷うことが多いのだと思う。最近は、特養とは入所者の生活を支援する場所だから、精一杯生活を支えることが社会的な役割であると割り切って、その延長線上にあるものが自然に選択されればそれでよいという世界観を大切にして、看取りの場所にはあまりこだわらない仕事の仕方に努めている。

( 注1;山形西部地区包括支援センター、注2;特別養護老人ホーム菅沢荘 )

追記:やっと脱稿ができて安堵していたところに、7月の西日本の豪雨災害で甚大な被害が発生したとの報道があった。犠牲になられた方々を心より追悼するとともに、猛暑の中で被災地となった地域の一日も早い復旧と力強い復興を祈ります。~

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