Jul 8, 2022

ポピーインタビュー Vol.6 神谷浩平医師(MY wells 地域ケア工房代表)

 今回は、緩和ケアの分野で活躍されている神谷浩平先生にお話しを伺いました。

※神谷先生の活動:2001年、山形大学医学部卒業。同附属病院麻酔科、山形県立中央病院麻酔科を経て、筑波メディカルセンター病院緩和医療科へ。 2010年に山形県立中央病院緩和ケア病棟医師として入職、翌年、同院緩和医療科医長に就任。2020年に退職し、一般社団法人MY wells 地域ケア工房を設立し、コンサルタントとして独立。日本緩和医療学会・緩和医療専門医。

ポピー:以下ポ)
神谷先生の子供時代について教えてください。幼いころ、どのような少年でしたか?
 
 本を読むことが好きで、人前で話すのが苦手な少年でした。成績も優秀でない・・・(笑)。でも、高校生の時に合唱部に入り歌ったり、指揮をしたり、大学生の時には合唱部を作りオペラや舞台芸術の場で歌ったりしていたので、自然と人前に出ることに抵抗がなくなっていきました。
 
ポ) 医師を志すきっかけとなったエピソードや動機などはありますか?

 医師を志すきっかけは、中学生の頃、「病院で死ぬということ」という本を読んでのことです。死を迎えるという自分の力ではどうにもならない人生の大きな局面にいる病気の人の、苦しい思いや辛い思いを知り、それを支えたいと思い、医学の分野に興味を持ち始めました。
 
ポ) なぜ、緩和ケアを専門に深められたのですか?

 緩和ケアは新しい分野だったので関心を持った、ということもありますが、麻酔科で診療していた頃、患者さんやご家族は、身体的な痛みだけでなく手術への不安、誤解等の大きな心理的な負担を抱えており、安心安全な入院生活を送るためには苦痛の緩和とともにコミュニケーションが重要である、ということに気付きました。そして、単に痛みを取るだけでなく、患者さんやご家族の不安や病状、家での生活が今後どのようになるか等について、全人的に向き合う医療が大切であると考えるようになり、次第に緩和ケアへの関心が強くなっていきました。他の先生からは、「患者の人生を見るような歳ではない、まだ早いよ」と、よく助言いただきました(笑)。確かに長い臨床経験を積まれてから緩和ケアに進まれる医師も見てきましたが、経験や年齢に関わらず、専門領域として緩和ケアを学びながら患者さんに関わっていくことは、意味のあることだと思っています。
 
ポ) 患者様との関わりのなかから特に印象に残っている場面などがあったら、差し支えない範囲で教えていただけますか?
 
 緩和ケアのコンサルタントの仕事をしていると、テレビドラマが陳腐に見える位、患者さんとの関わりは色濃く、全て印象に残っています。余命1、2週間で、骨の痛みが強くあお向けにもできない病状の20代の男性患者さんの話ですが、「痛みが取れたら何をしたいですか?」と質問したところ、「結婚を約束した女性と家族でディズニーランドに行きたい。」と話されたので、「だったら、ここからが私たちの腕の見せ所ですね」と伝えました。後でその患者さんは、「その言葉が一番うれしかった」と話されていました。緩和ケアとして自分がやっていることは、その人にとって良いのかどうか自問自答したり、時に、無力さを感じる時もあるわけですが、患者さんに対し医療者が、「自分たちも頑張るから一緒にがんばりましょう」と、最後まであきらめない姿勢で関わることはとても大切な事だと感じています。明日、亡くなるぐらいの人が、もう一回海を見てみたいと話されたとすると、「なぜそう思われるか、教えていただけませんか」や、「そうなると、本当にいいですね、そうなるためにどうすれば良いでしょうね」と、患者さんがなぜそのような思いでいるのか、何を言って欲しいかを感じられると良いと思います。

ポ) 緩和ケアを地域の医療機関に広く普及するためのコンサルタント活動をされて2年、現在の活動内容や、感じていらっしゃることを教えてください。

 今、頑張っているのは各病院の緩和ケア支援体制の強化です。スタッフへのアドバイスが中心ですが、直接、診察することもあります。緩和ケアは、医師、看護師等、チームとして取り組むことが非常に大切であり、その考えが今後普及していくことが必要です。そして、この2年間で見えてきたことは、症状をスクリーニングし、アセスメントするシステムの必要性です。具体的には痛みの程度、お困りの強さ、どのように困っているのか、緊急性はどうか、誰が、いつ、どのように問いかけるか等、ルール化したアセスメントが医療チームで可能になることです。患者さんの苦痛については、包括的な視点から情報を医師、看護師等と共有し、チームで客観的に評価し、ケアや生活の質が上がったのかどうかの評価に繋げていきます。生活の質を保つ視点については、痛みをとるだけが緩和ケアではない、重要な要素と位置付けています。
 
ポ) 先生の目指す緩和ケアの在り人や、地域の多職種に期待することはありますか?
 
 地域の多職種に期待することは、患者さんやご家族、スタッフ間でのより質の高いコミュニケーションです。患者さんの生活の質がイメージできるような関わり持つことは大切ですが、そこを多職種に繋ぐのは多くは看護師の役割です。そのためには、「患者さんが自分の想いを話してくれない」、と患者任せにするのではなく、コミュニケーションのトレーニングをして、患者さんの言葉を待ち、自然に引き出せていけると良いと思います。話し合いの質を上げる技術のトレーニングについては、アメリカのハーバード大学で考案された、「重い病気を持つ患者との話し合いの手引きケアプログラム(SICP)」があります。ACPと言ってもそれができないと、患者さんの大切にしていることや、価値観、気がかりなどに焦点を当てた話し合いのプロセスにはなり得ません。こうしたマニュアルを活用しながらチームで取り組み、医療的な面でのゴールだけでなく、患者さん自身が人生の中で大事にしてきたこともゴールとして医療が役立っていけるよう、取り組んでいきたいと考えています。 
 
 

ポ) 最後に、先生の趣味や休日の過ごしかたなど教えてください。
 「趣味は、音楽を聴くことや合唱でしたが、最近はできていません。休日は少しでも体を休めつつ、おいしいコーヒーを入れて飲むことや、本を読んだりするなど、基本的にインドアな過ごし方をしています(笑)。仕事を兼ねたドライブが好きなので助かっています。」
 
ポ) 先生自身が召し上がりたい最後の晩餐を教えてください。
 「その時になってみないとわかりませんが、普段のご飯がおいしいと感じられて、食後に美味しいケーキと珈琲をいただければ嬉しいです。または、きっと口が渇いているので、アイスクリームや果物など、冷たいものでさっぱりして終わりたいかな、と。」

神谷先生のインタビューを終えて
  先生の話を伺って、緩和ケアというのは、単に患者さんの痛みを緩和するだけでなく、「全人的な視点で心に寄り添い癒し、生活の質を高め、幸せを全うできるよう支えていく医療である」ということを理解することができました。柔らかに話される先生が、仕事の話になると真剣な眼差しで熱く話される姿が、印象的でした。
神谷先生、ありがとうございました。
 

過去のポピーインタビューはこちらからご覧いただけます。

Vol.1 根本元医師(在宅医療・介護連携室ポピー室長・根本クリニック院長)
Vol.2 峯田幸悦氏(山形県老人福祉施設協議会・ながまち荘施設長)
Vol.3  大島扶美医師(医療法人社団・社会福祉法人悠愛会理事長)
Vol.4 山川淳司氏(元小規模特別養護老人ホーム大曽根施設長/現盲特別養護老人ホーム和合荘)
Vol.5 髙橋邦之医師(髙橋胃腸科内科医院 古舘診療所・飯塚診療所所長) 

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