Aug 5, 2022

ポピーインタビューVol.7 大沼智之歯科医師(大沼歯科医院 院長)

今回は山形市内の在宅歯科診療にご尽力くださっている大沼智之先生にお話を伺いました。

〇先生が歯科医師を志すきっかけとなったエピソードや動機などを教えてください。

祖母が歯科医を始めて、両親、弟も歯科医です。幼いころに見ていた歯科医の父は、診療が終わった後も夜遅くまで技工の仕事をしていました。書物を読んで勉強する姿もたびたび見ていましたし、勉強嫌いな自分は、勉強ばかりしなくてはならないのなら歯科医にはなりたくないと思っていました。自分としては数字が好きでしたのでそういう方面に進みたいと思っていたのですが、いよいよ進路を決める時には長男だから…と自分なりの覚悟を決めたように思います。

〇学生時代はどのように過ごしましたか?
山形から新潟の海沿いにある大学に進学したのですが、海沿いをバイクでツーリングするのがとても気持ちよくて楽しかったです。学びについても興味を引くものに出会い、面白いと思える分野に進むことができました。卒業後も大学に残り歯科補綴(ほてつ)学(入れ歯や差し歯、ブリッジ、顎関節症、かみ合わせなどの分野)を専門に16年学びました。学ぶたびに知識が増え、できることが増えていく、そのことに楽しさを感じていました。

〇先生は在宅歯科診療もされていますが、在宅歯科診療を始められたのはなぜですか。

山形市歯科医師会では全国でも早い時期に在宅歯科診療を始めています。そこには私の父も関わっていましたので、あたりまえに目の前に在宅歯科診療がありました。大学病院の診療でも訪問歯科診療チームに入っていたので訪問する機会もありました。在宅歯科診療はわたしにとって特別というイメージはなく、とても自然に、身近にあったと思います。訪問歯科診療は診療以外の時間を利用して患者さんのお宅を訪問することが多いのですが、歯科衛生士の妻も同行してくれています。訪問歯科診療に理解してくれている妻がいるので環境に恵まれていたというように思います。

〇先日、国民皆歯科健診の実現に向けて国が動き始めました。近年では特に口腔内の健康状態と様々な疾患の関連についての話題を聞くことが多くなったように感じます。

パンフレットやリーフレット等は以前より良く見かけると思います。例えば、山形市では母子健康手帳にも妊娠中の口腔衛生と低体重児出産の関連について掲載するようになりました。さらに、2~3年前から始まった妊産婦歯科健診を通じて安全な出産や乳幼児の健やかな発育と妊産婦の口腔衛生との関わりについて、それに加え40歳50歳60歳70歳75歳の方への歯周病検診では、歯周病と全身疾患との関連も説明しており、関心を持ってもらえるようになったと思います。また2年前の保険改正で「口腔機能低下症」が病名収載され、高齢者には口腔機能に着目したフレイル予防増進など、まだまだ周知の必要性はありますが、各ライフステージに応じた対応をしていくことが大切だと感じています。

〇口腔内を健康に保つことはフレイル予防にも関連し、健康寿命を伸ばすことにもつながりますが、なぜでしょうか。

フレイル予防や健康寿命の延伸には、適切な栄養摂取は重要です。口腔衛生の低下により歯周病やう蝕で多くの自分の歯を喪失したにもかかわらず義歯等で補わず放置したり、多くの自分の歯があっても、あまり嚙まなくてもよい食事ばかりしていて嚙む力が低下してれば十分な咀嚼ができません。それでは食の多様性が低下し、十分な栄養を取ることができなくなってしまいます。以前、デイサービスに通う利用者600名を対象に栄養状態と口腔内の状況を調査しました。調査の結果、よく噛める方は栄養状態が良く、よく噛めない方は栄養状態が良くない傾向にあることがわかりました。山形の方は困っていても我慢される方が多い印象があります。特に口の中は身体よりも後回しになってしまう傾向にあり、いよいよ何とかしないとどうしようもない状況になるまで我慢される方もいます。我慢せず、早めの受診をしていただきたいと思っています。

〇では、口腔内を健康に保つための秘訣を教えてください。

やはり、かかりつけ医を持つのと同じようにかかりつけ歯科医を持っていただくことだと思います。定期的にチェックしメンテナンスを行うこと、予防ですね。そして歯も身体と同じく早期発見・早期治療が大切です。困っていたら気軽に相談していただきたいと思います。

〇在宅の患者様の口腔内を診ていて感じていることがありましたら教えてください。

以前に比べると口の中への関心が高まっていると感じます。医療や介護の現場では口腔ケアと誤嚥性肺炎の関連が言われるようになり、介護現場でも注意してくださるので訪問診療の依頼も多くなりました。一方、厚生労働省の資料では要介護者の75%の方には歯科治療が必要ですが、実際に受療につながっている方は27%にとどまっているのが現状です。お口の中の問題を我慢せず相談していただき、より多くの方を受療につなげていただきたいです。歯科受診の必要性を判断するために活用できるツールとして山形市歯科医師会で作成した「お口の問題チェックリスト」があります。患者さんの症状やお困りのことから歯科治療の必要性について気づくことができるチェックリストになっています。ぜひ皆さんに活用していただきたいです。

 山形は在宅歯科診療に関わる歯科医師の割合が全国でもベスト5に入るほど多い県です。こんなに豊富な医療資源があるのですからぜひ地域の方々に在宅歯科診療を活用していただき、もっとこの地域に浸透していけたらと思っています。

〇地域の医療福祉関係者との連携で感じていることや先生自身が心掛けていることなどがありましたら教えてください。

顔の見える関係とよく言いますが、できるだけ直接会って話すようにしています。職種によって同じ言葉でもニュアンスが違うことがあるので、直接話すことで言葉をどのように受け取っているか理解できると感じています。

 MCSも在宅歯科診療では大変役に立つと思います。患者さんのお口の中の情報、歯肉の腫れや出血などの症状を言葉で表現するのは難しいですが、MCSでは撮った写真を送ることができます。お口の中の写真をいただくことでその患者さんに必要な処置、必要な器具を予測することができ、最初の訪問から治療することができるので助かります。相手の連絡先を知らなくてもMCSだとつながることができるのもいいですね。

〇最後に、先生の休日の過ごし方(趣味など)を教えてください

妻がドラマや映画を撮っていてくれるので、お酒を飲みながら二人で見るのが楽しみです。

それと、スキューバダイビングです。実は幼いころにジョーズという映画を観たのですが、衝撃と恐怖心があったので「海に潜るなんて絶対にやらない!!」と思っていましたが、妻と旅行に行ったときに妻に誘われて初めて潜りました。目の前に別世界が広がっていて「こんな世界があるのか!!」と感動し、夢中になってしまいました。

〇大沼先生、ありがとうございました。

大沼先生は「甘いものも食べていいし、もちろん前提にだらだら食べをしないこと」や「歯周病予防のためには、1日何回歯磨きしたかではなく1回しっかり磨けばいい。意外かもしれないけど意外な方が記憶に残るでしょ?」とお話されていらっしゃいました。幼いころに見た歯医者さんの待合室の「お砂糖は敵!甘いものは虫歯の原因!ミュータンス菌が歯を溶かす!!」という絵本やポスターのイメージが強かったので、まさか歯科の先生から甘いものも食べていいと言われたことに新鮮な驚きを感じている自分がいました。そして、先生のお話の中には山形の方々の特徴や暮らし、生活、楽しみ、などの言葉もたびたび登場し、お会いした数時間で歯科診療や口腔ケアに対して、豊かな食、豊かな暮らし、食べることを楽しむ、等のイメージを持つことができました。先生が、ご自分の置かれた環境が恵まれていたと度々話され、穏やかに優しくお話しくださる姿、ひとつひとつ言葉を聞いていただいた上で疑問にも真摯に答えてくださる姿から地域の専門職からの信頼が厚い理由を感じました。今後のご活躍を楽しみに思います。(K.U)

過去のポピーインタビューはこちらからご覧いただけます。

Vol.1 根本元医師(在宅医療・介護連携室ポピー室長・根本クリニック院長)
Vol.2 峯田幸悦氏(山形県老人福祉施設協議会・ながまち荘施設長
Vol.3  大島扶美医師(医療法人社団・社会福祉法人悠愛会理事長)
Vol.4 山川淳司氏(元小規模特別養護老人ホーム大曽根施設長/現盲特別養護老人ホーム和合荘)
Vol.5 髙橋邦之医師(髙橋胃腸科内科医院 古舘診療所・飯塚診療所所長) 
VOl.6 神谷浩平医師( MY wells 地域ケア工房代表 )
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